秋の深まりと共に、京都を訪れる観光客はいよいよ多くなる。有名寺院や名所旧蹟はいわずもがな、近頃は京都人も知らないようなところへの方たちが沢山おいでになる。お陰で京都の歴史や伝統を改めて見なおしたという人もあるほどだ。情報過多といわれる時代の慮外の功績であろう。
京都はどなたもご存知のように盆地である。周囲を山にかこまれた京都は、夏はむし暑く、冬はしんしんと冷え込む。住む者には酷しい気候条件だが、反面そうした地形が素晴らしい庭園美を創り出してくれた。その最たるものの一つが借景である。周りの山々を実に巧みに我が庭園に取り入れている。庭の木や石、塀、そしてそれらの背後に望見する山脈 ―― その調和の美は万人の識るところである。
かつて我が師はよく門下生を連れてそうした寺院へでかけられた。そして庭を眺めながら、こんな話をされた。
借景の庭の小さな石 ―― その下には何十倍もの大きさが埋まっている。表に出ているのは、そのほんの一部でしかない。いわば氷山の一角なのだ。地面の下の、見えない部分の支えがあるからこそ、あんな小さな石が、大きな山を背景にしても負けないだけの力、重さがあるのだ ―― と。
演劇も同じである。表に出ている部分 ―― つまり舞台の上での生活を展開する為にはその何十倍ものの生活 ―― その人物の舞台上以外の生活 ―― を踏み込まなければならない。その支え、裏打ちがあってはじめて、いい舞台は成り立つ。
又、このことは演劇に限らず、他のあらゆるものごとに通ずる。いい仕事、すぐれた仕事をする人は必ず、どこかで、目に見えないところで懸命に己をふとらせ、充実させる努力を続けているものである。
庭石を通して教えられた不変の真理は、よき師に恵まれた幸せと共に、常に我がうちに生きている。
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