『 ゆく夏 』

京の夜空を染めて五山に送り火が点され、この世とあの世をつなぐお盆の行事が終わりました。
いよいよ夏が去っていく ―― そんな感傷がふとよぎります。
一方、甲子園では毎日、球児たちの熱戦が繰り広げられています。
熱戦を中継するアナウンサーの方々も、それぞれに御苦労があるようです。
かなり前のことですが、その方は放送の担当が決まるとすぐ、資料の蒐集・調査は勿論のこと、放送当日には必ず朝一番に球場に入られます。未だ選手たちも観客も入ってない静かな球場を隅から隅まで、アルプススタンドも、選手たちの控えの場も、裏方の部屋も、全てくまなく見て廻られます。全体を掌握していれば何があってもすぐに対応出来るからです。 「選手も監督も応援の人も、皆がそれぞれ全身全霊で取り組むのだから、放送する自分も出来る限りのことをするのは当然」との心構えでしょう。
二週間の熱戦が終わる頃、それまで縦に伸びていた夏の雲が、横に長い秋の雲に変わります。
そして選手も観客も全てが去った静かな球場に、どこからともなく赤トンボの群がやって来て、吹く風にも秋の匂いがする ―― 毎年必ずくり返される熱戦の後の風景だとか。
異常な暑さの続いた今年の夏も、同じ風景が見られるのでしょうか。

般若林では少し前からツクツクボウシが鳴いています。相国寺様の境内ではひぐらしが、そしてツクツクボウシもくまぜみもミンミンぜみも、いろんな蟬の声を聞くことが出来ます。残念乍ら般若林ではひぐらしの声が聞けません。あの澄明な声を聞けたら、暑い稽古場も少しは涼しくなるのですが ―― 。
でも秋はすぐそこ。朝夕の一寸した涼が、それを教えてくれています。

カテゴリー: 未分類 | コメントする

『 暑さの中で 』

猛暑、酷暑、記録更新 ―― 。
連日そんな言葉が飛び交っています。いつになったら治まってくれるのか、本当に「もう、いい」といいたくなります。
そんな中、日盛りに草とりをしたり、落葉を掃き集めたりする塾生がいます。
「今日は外での作業は止めなさい」といわれても、「はい」といい乍らやめません。
「こんな日に外で仕事して倒れても、“バカだ”といわれるだけだから。早く止めなさい」―― 。何度もいわれてやっとシブシブ止める姿に、本当は感謝しているんですが ―― 。
それにしても暑いですね。皆さまはどんな風にお過ごしなんでしょう。

今、塾の二階の稽古場からは、お三味線の音色と唄声が、聞こえて来ます。暑い中、浴衣姿で、顔をまっ赤にし乍らも笑顔をたやさずがんばっている女性たち。
当り前といえば当たり前なんですが、それでも「よくやってくれるな」と思います。
でも、昔の芸商人さんたちも暑い中、大きな荷物をかついで商いに歩いたはずです。

「町かどの藝能」の中に「風鈴売り」という商いがありますが、大きな屋台をかついで、IMG_0785
風鈴の涼やかな音色をひびかせながら、町の中を歩きます。
売り声は ――
  ふうーりん ふうーりん
     え ふうりん ふうりん
単純な唄詞(うたことば)ですが、実にのびやかで美しい節廻しです。とに角“涼”を売る商いですから、芸商人本人は決して暑そうな顔は出来ません。まして汗を見せるなど、もっての外(ほか)。どんなに暑くても涼しそうな顔で涼しい売り声をあげ、涼しい音色を聞かせながら商いに廻ります。そして、一寸した木蔭を見つけると荷を下し、気づかれぬようにそっと汗を拭い、一息入れると又、暑さなどどこ吹く風、涼しい声をあげて歩き出すのです。
そんな芸商人たちが行き交った京の町。
クーラーの吐き出す熱風も、コタツが町なかを走っているような車も無い時代、今よりはずっと涼しかったでしょう。
それでも大きな屋台をかついでの炎天下の商いは大変だったはずです。
昔の芸商人に想いをはせ乍ら、今日も稽古場は動いています。

カテゴリー: 未分類 | コメントする