四月からはじまったNHKの朝のドラマに、輪島塗りのことが取り上げられている。
かつて、ある輪島塗りの職人さんに、テレビのアナウンサーが質問していた。
「とても質素な生活をなさっているようですが、せいたくをしたいと思われたことはありませんか」―― 。
アナウンサーの不思議そうな質問に、その職人さんはボソッと答えられた。
「ぜいたくいわれても、したことがないから、わからん―― 。
何の気負いもてらいもなく、一言そういうと、又、黙々と仕事を続けてられた。
その時の、胸に刃を突き刺されたような痛みは今も忘れられない。
永六輔さんなどもよくおっしゃっているが、本当に、もっともっと「職人といわれる方々を大切にしてほしいと思う。
又、少し前の「マッサン」では、ウイスキー造りが取り上げられていた。
これも何かのドキュメンタリー番組で見たのだが、ウイスキー造りの職人さんが沢山並んだ原酒の樽を愛しそうに撫でながら、
「今、仕込んだこの原酒が、何十年後にどのように育っているのか、成長した姿を私たちが見ることは出来ません。
けれど、先人たちが素晴らしい原酒を残してくれたからこそ、今の私たちが美味しいウイスキーづくりに挑戦することが出来るのです―― 。
自分たちのこの原酒も、いつかそんな喜ばれるウイスキーになってくれるであろうことに、限りない夢と希望を感じてられるその言葉は、こよなく美しかった。
少しでも早く、少しでも便利なものを追い求める今の世の中にも、それではどうしてもつくれないもの、生み出せないものがあることを、改めて考えさせられる。
我々の追い求めるものも又、早く便利にではどうすることも出来ないものである。少々苦しくとも辛くとも(あまりそうは思わないのだが)、好きな道を誇りをもって歩める者は、やはり幸せ者といえるだろう。